リベラルアーツ(Liberal arts)を和訳すると「自由になる術」です。
私たちの頭の中には知らず知らずのうちに先入観や偏見のような思い込みが生まれてしまいます。また、自分自身の損得や身近な人の意向など目先の事情にそって行動してしまいがちです。
平和な社会や自然との調和による人間の幸せを実現するには、そのような束縛から解き放たれ、ひろやかでのびやかな心で物事を考える力が大事なのではないでしょうか。つまりここで言う自由とは、人間関係から逃れて自由気ままになるということではなく、善い人間関係を築くために自分の心や頭の中の障害から自由になるということであり、多様な価値観に寛容になるということです。
そして、私たちが直面する複雑な社会課題を解くためには、一部だけを深く理解する専門性ではなく、物事を俯瞰して総合的な判断をするための統合智が重要であり、それを育むのがリベラルアーツだと言われています。
リベラルアーツとは、「寛容なこころで統合智を発揮することにより、他者と共により善い社会を創ることができるような人間となるための学び」といえるのではないでしょうか。
今ほど先行きが見通せない時代はないと感じられます。世の中が大きく変化したことにより、これまで使ってきた羅針盤が古くなってしまったのです。
まず、すべてを金銭的価値で測ることで世界が良くなるわけではないことに多くの人が気が付いており、GDP至上主義は限界を生じています。自然と調和し人に優しい幸福な社会は、個々人が利益至上主義で行動していては実現できないのです。
次に、大量生産、大量消費をもたらした工業化社会では、効率性を重視した画一的な行動様式をもたらしましたが、それにより、社会に余裕がなくなり随分と窮屈になりました。ダイバーシティ、インクルージョン、スローライフなどの揺り戻しが来ています。
最後に、最近しばしば聞かれるようになった言葉に、「I'm not religious but spiritual. (私は宗教的ではないが霊性はあります)」があります。特に若い世代の中で、唯一の正しさを唱える宗教から距離を置く人が現れてきています。
このように、これまでの羅針盤が使えなくなった今、これからの社会の方向性を決める価値観はどこに求めたらよいのでしょうか。それを考える術がリベラルアーツなのです。
多くの日本の大学では、専門的な学問をする前に教養学科を履修することが求められています。もともとの発想は、専門性を高めるだけでなく、そのベースとして総合的な力を身に着けることによる人格形成にあるのだと思います。
確かに、すぐに役立つ実学ではなく、文化や歴史、文学や哲学など人間を深堀りする学科という点ではよいのですが、先生の講義を大教室で聴き、それを暗記することによりテストで基準点を取って単位を取ることは、リベラルアーツからは最も遠い学び方です。
リベラルアーツとは本来、多様な意見や様々な実例に耳を傾け、自ら問いを立て、自ら考えることを繰り返すことにより学ぶ術です。そのためには人との対話が重要なのです。最近、アクティブラーニングという言い方で重要性が強調されるようになっています。
西洋で中世までに確立したリベラルアーツでは、自由七科(seven liberal arts)が重要だとされました。文法、修辞、論理、数学、音楽、幾何、天文です。
文法、修辞、論理は、言語に関する3科、数学、音楽、幾何、天文は、数に関する4科と呼ばれています。これを、現代のビジネスノウハウ的に解釈すると、ロジックとデータが重要だということになりそうです。果たしてそのような理解でよいのでしょうか。
そもそもリベラルアーツとは、よりよい社会を創るためのリーダーを育てる学問です。そのリーダーに必要なものがロジックとデータだというのは表面的な理解、いや、大いなる誤解だと考えます。
言語に関わる3科は単なるロジックではなく、他者とコミュニケーションをとる術であり、それは競争に勝つためではなく、よりよい社会を共に創るためのものであるはずです。他者を論破する技術ではなく、他者を納得させられる話し方なのです。
そして残りの4科は、単に数に関係する学問なのではなく、世界の摂理を理解するための学問だと考えるべきです。よりよい社会を創るためには、世界とはどのようなものかを理解することが重要だからです。そしてここに音楽が入っているのは、音楽が数学的だからではなく、世界を理解しよりよい世界を創るうえで、音楽がもたらす美と喜びが欠かせないものだからなのではないでしょうか。
そしてリベラルアーツとしてこれらの科目を学習することは重要ですが、十分ではないということも知っておきたいことです。
リベラルアーツや哲学は、実業とは離れたアカデミックなものだと思っていないでしょうか。実は、リベラルアーツはあらゆる共同体を運営するためのリーダーにとって必要な学びです。そういう意味では実学といえます。そのため、仕事をするうえでも大いに役立つということになるのです。
もちろん、まず仕事で必要とされるのは、所属している組織の実務に精通することです。例えば会社で言えば、マーケティング、営業、総務、経理、法務、施術開発、エンジニアリングなど、それぞれの専門的知識が重要となるのはいうまでもありません。
しかしそのうち、これだけではうまく対応できないことが出てきます。
ひとつは、立場が上になり、より広い見地から判断する必要が出て来たときです。自分の部署だけのことを考えていたら、組織全体の方針とうまく合わないことがでてきたという経験は誰しもが持っているのではないでしょうか。重要な立場になればなるほど、それぞれの専門を超えて統合的に物事を見ることが大事になります。
そしてもう一つは、これまでの経験だけでは対処できない新たな課題がでてきたときです。時代や環境が変化すると、実務で過去から積み上げて来た事例や経験に当てはめても処理できないような課題が出てきます。そういう時には、自分の中に判断するための物の見方や考える指針が必要になってきます。
このように、社会で直面する課題を解決する力をつけるためには、リベラルアーツにより統合智を磨くことが重要になるのです。
リベラルアーツには、目前の有用性という束縛から離れ人間精神を開放することにより物事の本質を探究し見極めるという意味があります。
人類が危機に直面している今、欧米など世界の若者は祖先の歩みを振り返る学び、つまり、古代ギリシャ・ローマにルーツを持つリベラルアーツによる学びを深めています。一方で日本においても、先人たちが練り上げ時代を超えて私たちの生き方の土台となる、こころの文化や智慧が遺されており、それはこれからの世界に大きく貢献できる価値と普遍性を有しています。
これを私たちは「日本型リベラルアーツ」と名付けました。そして「日本型リベラルアーツ」とは、
・全ての学問のベースとして早くから学ぶべきもの
・リーダーを役割と考え全ての人が学ぶべきもの
・「日本のこころ」の源流に立ち世界に価値をもたらすもの
だと考えます。
それでは、どうして「日本型」なのでしょうか。「日本型」とはどういうことなのでしょうか?
第一に「肚落ちする学びとなる」と考えます。
もちろん、西洋のリベラルアーツも素晴らしい学問です。しかし、普段の生活に染み込んでいる土壌が異なるため、短い時間では感覚的に理解できるところまで到達するのは大変です。そのため、どうしても知識を習得する学び方となってしまい、またそれにより、塾生同士の対話も表面的になってしまいがちです。それよりも、肌感覚のある日本の土壌に根差した学びをすることのほうが、私たちにとって納得感のある学びができると考えます。
次に「和のくに日本の、なんでも習合する特性」が重要です。
日本は太古の昔より、他の地域からの文化や文明を取り入れてきました。決して排除することなく、良いところを学び、それを政治や生活の中に融合させていくのです。日本住宅の和洋折衷、また、代表的な日本食となったラーメンやカレーライスは、これをわかりやすく形にした事例です。ゼロかイチか、右か左かではなく、和えたり混ぜたりする習合の精神にこそ、これからの世界を良くする鍵があると考えます。
そして「実は世界ともつながっている」のです。
もともと世界の民族は、原始的な宗教観、つまり、霊性といったものを根っ子に持っています。ところがその後、様々な運命による異なる歴史を経て、今はお互いの違いが目立つようになってしまいました、しかし、あらためて人間の根本に立ち返ると、人類共通の価値観があるはずです。日本を深堀りすることにより、それを発見できると考えています。
明治維新のとき日本人は、江戸時代までに培ってきた日本のこころを大事にしたままで西洋の知識や技術を学ぶことを「和魂洋才」という言葉で表現しました。
そして、日本の教育は西洋の知識や学問を学ぶことが中心となりました。西洋の学問に詳しい先生の言うこと、つまり、答えがあることを覚える、真似るということが重視されたのです。
それまでの日本には、人格形成のための学び、答えがない課題に向き合う学び、いわゆる、リベラルアーツと呼べるものがあったのですが、それはやむを得ず一旦脇に置かれてしまったのです。
明治維新から160年が経ちますが日本の教育制度は基本的にその時作られたままです。もはや西洋列強に追いつけ追い越せという時代ではありません。よりよい世界を他の国々と共に創るという、誰も答えを与えてくれず自分で考えるしかない課題の解決に日本がどう貢献できるのかが問われる時代なのです。
しかし、和魂洋才と言って始めたことなのに、いつのまにか洋才追従こそが重視されるという呪縛となってしまいました。最近着目されているリベラルアーツも、ともすれば西洋のリベラルアーツを形だけ真似することになりかねません。これは本来のリベラルアーツからは遠い姿です。
日本のこころを見つめ直すことにより、160年の呪縛を解き放ち、世の中の役に立つために自分で考えるという本当の意味でのリベラルアーツを手に入れることができるのではないでしょうか。
「日本のこころを大切にしよう」、「日本のこころを取り戻そう」と聞くと、とても保守的なことを言われているように感じ、リベラルアーツとは真逆の印象を持つ方もいるのではないでしょうか。
どんな組織においても、イノベーション、つまり、革新を起こすには、「そもそも大事なことってなんだっけ」、「そもそも何を目指しているんだっけ」と、「そもそも」に立ち返ることが重要だと言われています。これによって多くの人が現在当たり前だと思いこんでいるルールややり方を大きく見直すことができるのです。
明治維新の際、「鎖国は粗法である」と開国に反対した人たちがいましたが、その粗法は高々2百数十年前にできあがったのであって、日本の長い歴史から見るとわずかな期間のことでした。
このように、日本の良き伝統だと思っていることのなかには、日本のこころに根差した守るべき大切なものだけでなく、一時的な外部環境などによって作られ、今は時代に合わなくなって来たものも混ざっているのです。
私たちが意識的にも無意識的にも当たり前だと思ってしまっていることを考え直すためにも、もともとの根本に立ち返ること、つまり、「日本のこころ」とは何かを改めて見つめ直し、考えることが大切なのです。そしてこれにより、今の思い込みから自由になれ、より良い社会を共創するためのリベラルアーツが得られるのです。
自調自考
自啓共創塾では、塾生の「自調自考」を何より重視します。ここでは、知識を得ることを目的としておりません。「自ら問いをたて、自らその解を考える力」を伸ばすことを目的としています。
多様性と気づき
自ら問いを立てるためには、多くの「気づき」を得ることが重要です。それには、普段身の回りにいない人と普段しないような対話をすることが効果的です。多世代、多様なバックグラウンドの塾生の話を聞くことで、驚き、発見、違和感を得ることができます。
グループダイアログ
人は人と対話をすることで考えを広げたり深めたりすることができます。ここでは、一方的に講義を聴き、講師に質問をして教えてもらうことを目的とはしません。少人数グループに分かれての「グループダイアログ」こそが学びの場だと考えています。
◆プログラムの章立て
学習プログラムは、日本の歴史、文化、価値観などについての多角的な視点から学んでいけるよう、独自教材「世界のための日本のこころ」の1~15章に沿って構成されています。リベラルアーツでは、各章の知識を得ることが目的ではなく、その本質的な考え方や意味に触れ、感じ、掴み、また、それについて疑問を持って問いを立てることも含めて自ら考えることがなにより大事です。
1.世界が期待する日本のこころとは
2.日本のこころを育んだ源流に何があるか―神・仏・儒の習合、禅・Zen、和漢洋の思想
3.地球環境の保全・人類の共生を支える日本のこころ―神道について
4.政治思想と社会倫理の元にある日本のこころ―孔孟思想と陽明学等日本の儒教について
5.日常の生活習慣がつくり上げる日本のこころ―漫画・働き方・礼・女性活躍
6.真のサムライとは?―剣道・弓道・合気道に見る武士道のこころ
7.明治維新の立役者の生きざまを支えたもの―西郷隆盛・勝海舟・山岡鉄舟
8.聖徳太子の和の精神から世界・人類共生への日本のこころを考える
9.匠の道・茶道・書道・美術・文学等から日本のこころを探る
10.幕末から今日につながる実学・平等・人権・分権の思想
11.世界に貢献する日本型産業の精神の源―公益資本主義、石田梅岩、渋沢栄一等
12.グローバル時代における日本語の大切さ
13.世界に求められる日本型リベラルアーツとは
14.人工知能(AI)の時代と人間力
15.これからの世界・社会に立ち向かう日本の夢(ビジョン)
本書を入手したい方へ
日本型リベラルアーツの普及促進のため、定価1,980円のところを頒価1,000円(送料込)にてお譲りしております。取次店経由で到着まで若干時間がかかりますが、ご希望の方は下記口座にお振込み(希望冊数×1000円)いただくと共に、お名前、ご送付先住所、お電話番号、冊数、振込金額を記入のうえ、下記メールアドレスにご連絡下さい。
振込先 三菱UFJ銀行 日本橋支店 普通口座 0526043
口座名義 一般社団法人世界のための日本のこころセンター
連絡先e--mail jpkokoroinfo@gmail.com
なお、お急ぎの場合は、アマゾン等で定価1,980円にてご購入下さい。
自啓共創塾で使用しているこの教材は、日本型リベラルアーツ学習を推進することを目的として、2020年5月から12月にかけて開催した「世界のための日本のこころ」研究会の審議を得て、世界のための日本のこころセンターが編纂したものです。
監修・執筆 土居征夫
研究会の主なメンバー(一部)
田村哲夫(渋谷教育学園理事長)、荒木勝(岡山大学名誉教授)、古田英明(縄文アソシエイツ会長)、栗原康剛(Japan Pride Initiative)、神田淳(高知工科大学客員教授)、天野定功(元総務省審議官)、降籏洋平(日本信号株式会社会長)、天明茂(宮城大学名誉教授)、尾崎哲(野村証券元副会長)、藤田英樹(電経連専務理事)、小山邦彦(良知経営研究所代表)、中谷幸俊(東京理科大学理事)、川崎一彦(東海大学名誉教授)、一木典子(オレンジページ社長)、井上真祈子(Co-musubi代表)、水田宗子(国際media女性文化研)、加藤春一(縄文道研究所代表理事)、近藤誠一(元文化庁長官)、佐々木伸彦(JETRO理事長)、田中智大(外務省本省)、難波征男(福岡女学院大学名誉教授)、施光恒(九州大学教授)、山口秀範(寺子屋モデル代表) ※役職は作成当時のものです。
岡山大学名誉教授 荒木勝氏推薦
「憤せざれば啓せず」(論語)の言葉のとおり、小学の段階から、万人が等しく学びのこころを振り立たせることが大事な時代…。本書を参考に議論を深めてほしい。
渋谷教育学園理事長 田村哲夫氏推薦
次世代リーダーに必須の日本型リベラルアーツで、自ら学び(自調自考)「汝自身を知る」機会を持とう…。そのためのディスカッション・マテリアル。
目次
1.世界が期待する日本のこころとは
2.日本のこころを育んだ源流に何があるか―神・仏・儒の習合、禅・Zen、和漢洋の思想
3.地球環境の保全・人類の共生を支える日本のこころ―神道について
4.政治思想と社会倫理の元にある日本のこころ―孔孟思想と陽明学等日本の儒教について
5.日常の生活習慣がつくり上げる日本のこころ―漫画・働き方・礼・女性活躍
6.真のサムライとは?―剣道・弓道・合気道に見る武士道のこころ
7.明治維新の立役者の生きざまを支えたもの―西郷隆盛・勝海舟・山岡鉄舟
8.聖徳太子の和の精神から世界・人類共生への日本のこころを考える
9.匠の道・茶道・書道・美術・文学等から日本のこころを探る
10.幕末から今日につながる実学・平等・人権・分権の思想
11.世界に貢献する日本型産業の精神の源―公益資本主義、石田梅岩、渋沢栄一等
12.グローバル時代における日本語の大切さ
13.世界に求められる日本型リベラルアーツとは
14.人工知能(AI)の時代と人間力
15.これからの世界・社会に立ち向かう日本の夢(ビジョン)