第一期の伴走を終えて

自啓共創塾では、塾長や塾頭であっても、それは塾生に教える立場にあるのではなく、ともに学ぶものであり、また、塾生が学ぶための伴走者であるという立場をとっています。

 

そこで、塾長、塾頭が第一期を通じて何を学び何を感じたかについてここに掲載することにしました。

塾長 井上淳也

 

 自啓共創塾で学んで今思うこと

 

日本のこころを勉強するのはとても愉しいことです。これまで知らなかったことや、そこまで深くは理解していなかったことがだんだんと分かってくるからです。そうすると、いろいろなことが繋がってきて、さらにその奥に分け入ることができます。そしてそれは、育った国や文化といった自分の根源に関わることなのですから、誇りや自信につながるという心地よさもあります。

 

ところで、自啓共創塾は「自調自考」がモットーですが、その先には自分で行動する「自行」があると思っています。そうでなければ、ただ自分で考えているだけ、もしくは、ただ言っているだけの評論家になってしまいます。それはただの自己満足であり、そこで得た誇りや自信も虎の威を借りただけにしか過ぎないのではないかと思うのです。でもじゃあ自分は何らかの行動を起こせているのか。そんな疑問がどうしても湧いてくるのです。

 

そうですね。日本のこころを勉強する目的は既に掲げられています。世界のための日本のこころです。世界のため、世界のため、自分は世界のためになにかしているのか。

 

20代のころは、世界をまたにかけて仕事をしたいという希望、いや、野心を持っていました。英語も勉強し留学もしました。海外で仕事をしたいと思っていました。しかし2年ほど国際フォーラムの仕事をした以外は、結局ずっと国内の仕事をしてここまで来てしまったのです。さて、今から世界のために何ができるのだろうかと考えてしまうわけです。

 

世界のために貢献するというと、そのイメージは国連のような国際機関で活躍したり、国際会議のメンバーになって議論をリードしたりといった感じがします。日本人の世界的なリーダーが少ないと言われている分野かもしれません。このような場で世界的なビジョンを示したり、方針を作ったり、ルールを整備することはとても大事です。

 

ただ、会社でもなんでも、社長や幹部がビジョンを示すだけでは物事は進みません。トップダウンと同時にボトムアップも重要なのです。では一体、より良い世界を作るボトムアップとは何でしょうか。私はそれが、地方創生だと思っているのです。そこに住む人たちが、自ら自分たちの地域を運営し豊かで笑顔のある幸せな共同体を作ることができれば、世界の人たちが真似をしたくなるモデルになるはずです。そういう地域社会を創ることが、世界へのボトムアップでの貢献になるはずです。世界から注目されれば、その地域のリーダーがいきなり世界の会議にデビューするということも可能です。ボトムアップが、トップと直接つながる瞬間です。国より小さな単位の地域が世界的につながり、それらが連合する会議の中で日本各地の元気な地域が生き生きとプレゼンするなんていう未来は素敵です。そんな未来を夢見て、地域創生に貢献していきたいなと考えています。

塾頭 根本英明

 

 地球という生命体の中で、自然と共生しつつ、あらゆる人が輝ける社会を実現したい

 

人々が物質的豊かさを追い求めた結果、地球上の多くの資源を乱開発し、地球全体に膨大な負荷をかけてきた。ある自然人類学者によれば、現在の地球環境破壊の深刻さは、46億年の地球史の中でも大きな過渡期に刻まれるほどだという。こうした地球危機を乗り越えるには、どうすればよいか。あらゆる自然に神の存在を感じ、人間も動植物とともに自然の一部であり、自然とともにある「日本のこころ」に、世界永続のヒントがあるように思う。しかしこうした世界観は日本に限られたものではない。北米やアラスカの先住民族の智恵とも共通する、いわば人類普遍の叡知といえる。

 

歴史を振り返る時、江戸時代はリサイクル、リユースの進んだ循環型社会だった。我々は今一度、この時代を振り返り、そこからも学ぶべきヒントがある。

 

また現在の日本社会では、生きづらさを抱える子供、若者が数多く存在する(不登校23万人、ニート87万人)。その原因として、一つのルートに従って生きることを求められがちな社会のあり方や風潮にあるように思う。そこから外れると「困った人」「社会不適応者」と見做されがちだ。しかし、そもそも人はみな異なる個性を持っている。二宮尊徳の思想をわかりやすく表現した「万象具徳」(作:佐々井典比古・報徳記念館初代館長)という詩にはこうある。

 

「どんなものにもよさがある/どんなひとにもよさがある/よさがそれぞれみなちがう/よさがいっぱいかくれてる/どこかとりえがあるものだ/もののとりえをひきだそう/ひとのとりえをそだてよう/じぶんのとりえをささげよう/とりえとりえがむすばれて/このよはたのしいふえせかい」

※「ふえせかい(増え世界):さまざまな価値が生まれ増えて、世界が広がること」

 

一人ひとりが輝くためには多様な生き方が選択できる社会をつくっていくこと。さらにあらゆる人の可能性を信じ、ポジティブコア(核となる潜在力)が引き出されることによって、さまざまな才能が開花する。みんなが輝く希望に満ちた社会が生まれるのではないかと思う。

 

これから取り組んでみたいことは次の通りである。

 

1. 「令和日本の国家デザイン」の提言

日本のこころセンターでは一昨年「日本のこころ研究会」を設け、メンバーと議論を重ねて『世界のための日本のこころ』作成に至った。次は「令和日本の国家デザイン研究会」を設け、日本のこころを土台とした日本の輝ける未来を展望する提言を発信することを行ってみたい。提言を発信することで、センターの存在価値が高まる。さらに提言実現に向け、各方面に働きかけを展開していく。こうした活動を通じて、よりよい日本の未来を築いていく一端を担っていければと思う。

 

2. さまざまな地域での「自啓共創塾」開催支援

卒塾生それぞれがつながり、各自のテーマを実践し、行動することを支援し合えるようなサポートを行いたい。さらに、それぞれの地域や職場での「自啓共創塾」開催を支援することで「日本のこころ」の全国普及を図りたい。

 

3. 身体知ワークショップ開催

 

日本のこころの本質を掴むのは、知識や観念ではなく覚知。五感塾以外に身心一如のワークも開催していきたい。伴走者として塾生のみなさんと共に学ぶ機会を持たせていただきましたが、皆さんからの鋭い意見や深い洞察から、私も触発され、得難い経験を持つことができました。8カ月間、どうも有難うございました。

塾頭 栗原康剛

Japan Prideイニシアチブ発起人

 

「日本人が日本に対する誇りを持ち、自ら行動・コミットする気概を取り戻し、真摯に日本の課題に向き合い、更には世界共通、先行する課題に取り組み、先送りをせず解決の道筋をつけ、次世代に誇りや夢を持てる基盤を引き継ぎ、そして国際社会に貢献し世界から尊敬される国とする」というのが、Japan Prideイニシアチブの志です。

 

自啓共創塾は、これを実現する取組になるであろうという仮説を持ち、参加させて頂きました。まさにこの仮説が検証された第1期だったと思います。

 

古代ギリシャにルーツを持つリベラルアーツは“自由に生きるための技術”でしたが、現代に求められるリベラルアーツは“幸せに生きるための技術”と考えます。人が幸せに生きるためには、自らの心身を充実する力に加え、進んで他人や社会の役に立つことが大切です。大局的、複眼的な観察力と洞察力、高い志と徳を備え、信頼・尊敬される人間力が求められます。自啓共創塾における皆さまとの対話と学びを通じて、“日本のこころ”にその源流があると確信しました。

 

現在、Japan Prideイニシアチブの取組を深化させるような構想を思案しています。「リベラルアーツ」と「実践智(現代社会の未解決課題の解決)」を結び付けるようなプログラムを通じて、企業や教育機関等に対して、「人材開発(含、エンゲージメント)」「社会貢献」「経済社会システム再構築」に資する機能を提供する仕組みをイメージしています。第1期生やご協力頂いた関係者を含む自啓共創塾の皆さまのお力やビジョンとの連携が必要となりますので、今後とも皆さまとの交流を継続させて頂ければ幸いに存じます。